「猛スピード」&「逃亡」感想文

 読み終えました、ようやく。記録のために、感想を書いておく。


 猛スピードで母は (文春文庫)まず、長嶋有「猛スピードで母は」。
 芥川賞をとった表題作「猛スピードで母は」(以下、「母」)よりも、私はもう一つの収録作「サイドカーに犬」(以下、「犬」)のほうが、より好きだった。芥川賞って・・・ホント、私にとってはさほどの意味を成さないわ。
 「犬」の何が好きって、洋子さんがかっこよすぎ。キャラ勝ちでしょう。なんであんな男(主人公の父)と付き合ってたの?っていうくらい。で、洋子さんに犬のように扱われている、と勝手に感じて、でもそれは嫌じゃない、むしろいい感じにとらえている「私」、というのを持ち出すあたり、うまいなあ。タイトルでもはや勝ってるよね、「犬」は。
 洋子さんや両親に散々振り回されたのに、「まったく何にもならなかった、普通の私」というのも、リアルだよなあ。そして、それだからこそ怖いのよ。そういうほうが、とてつもなく深い闇を抱えているんじゃないかってね。
 あのころの洋子さんの年齢をとっくに追い越してしまった「私」。でも、洋子さんのような精神的な強靭さを身につけてはいないし、傷つくような恋や経験もしていない、普通に育って普通に生活している「私」。
 でも、そんなもんだよね、人間って。
 ということをひしひし感じた作品。好きです。
 「母」のほうは、嫌いではないが、代わりにぐっと来るものもない、といった印象。
 ただ、慎が、母と恋人が夜になっても帰ってこず、さすがに泣いてしまう場面は、よかった。子どもだからこそ感じてしまう、「母がこのまま帰ってこなくても、納得してしまう」淋しさ、哀しさ。そうそう、子どもって、意外とそんなことを考えているものなのかもしれません、としんみりした。
 長嶋有さんは、初めて読んだ。たぶん好きな作家だと思うので、違う作品もぜひ読んでみようと思う。エッセイとかも。
 しかし、エッセイでのペンネームが「ブルボン小林」とはこれ如何に。


 逃亡くそたわけもう一冊、絲山秋子「逃亡くそたわけ」。
 好きなんです、絲山さん。「海の仙人」は乗り切れなかったけど。
 さすが、自己の経験(躁鬱)が生きてるわ。「亜麻布・・・」のフレーズ、使い方が(・∀・)イイ!!素晴らしい。こういう人たちを作品にするとたいていが失敗するか重すぎて読みたくなくなるかどっちかだと思うけど、笑えるしよく分かるし、ほんとうまいよなあ。
 なごやん、情けなくて、でもふっと出るお兄さんらしさが好き。パニックに陥ってる時にへんな知識をぶちまけるところとか(笑)いいよなあ。悲惨一歩手前の情けなさ。
 作品後の二人がどうなっているのか、読者に楽しくあれこれ想像させてくれるのも、私好みなんだよねえ。
 早く直木賞を受賞して(させて)欲しいです。ほんとうまいから。みんなにももっと読んでもらいたい。
 でも自分、そんなに好きなら、本をちゃんと買えよ。(図書館で借りたのです・・・切腹。)